角秀一ダイアリー

今年も出会えた一冊一冊に感謝

≪角秀一の読まずに死ねるかのコーナーその65・66・67・68・69・70≫
【海峡の鎮魂歌(レクイエム)/熊谷達也/新潮文庫】☆☆☆☆☆

今年読んだ小説の中からいくつか紹介します。

一番心に響いたのがこの作品です。昭和9年春、函館の潜水夫・泊敬介は、時化る海と吹き荒れる風に妙な胸騒ぎを感じていました。予感は的中し、猛火が街を襲います。妻子と母を探し歩く敬介でしたが・・。さらに昭和20年の空襲、昭和29年の洞爺丸沈没。立ち直ろうともがく敬介に、運命は非情な仕打ちを繰り返すのです。著者の作品では「邂逅の森」という素晴らしい小説がありますが、彼の表現する人と人の絆にはいつも涙してしまいます。

 

【海と月の迷路/大沢在昌/講談社文庫】☆☆☆☆

ハードボイルド小説ではこの一冊をプッシュ!わずかな土地に5千人以上が暮らす炭鉱の島、通称「軍艦島」。昭和34年の初夏、少女の遺体が見つかります。
島に赴任したばかりの警察官・荒巻は、不審な人物の存在などから、事故と判断されたその死に疑問を感じ、独自の捜査を行うのです。だがそれは「全島一家族」を標榜し、警察すらも管理下におく島の組織と掟に波紋をよぶことになります。
少女は殺されたのか?正体を隠した罪人が島に?「新宿鮫」シリーズの超有名作者が遂に吉川英治文学賞を受賞したエンターテインメント小説です。

 

【吠えよ江戸象/熊谷敬太郎/NHK出版】☆☆☆☆

時代小説。しかも心がすっきりした本がこれ!改革の続く享保時代。一人の少年の目安箱への投書「象が見たい!」を読んだ時の将軍吉宗は、象を長崎から江戸まで牽き渡すよう命を下します。さあ大変。命を受けた象使いの少女・千代と、本道医・豊安達の長い旅路が始まります。神経質な象のために道中は掃き清められ、橋には苔が敷き詰められるなど街道筋の村々は大わらわ。吉宗の鼻をあかそうとする一群も暗躍してきます。長崎では阿片の密輸事件も起こります。果たして無事、象は江戸にたどり着けるのでしょうか。こんなに楽しい時代小説は初めてでした。

 

【一瞬の風になれ/佐藤多佳子/講談社文庫】☆☆☆

青春小説ならこれ!第28回吉川英治文学新人賞受賞、第4回本屋大賞受賞の金字塔を打ち立てた作品。あさのあつこの『バッテリー』、森絵都の『DIVE!』と並び称される青春スポーツ小説です。信じ合える仲間、強力なライバル、気になる異性。神奈川県の高校陸上部を舞台に、透明感あふれる向上心とストイックな挑戦。10代の頃を思い出してしまいました。ちなみに私は青春小説のナンバーワンは公開中の映画「聖の青春」の原作です。

 

【隠蔽捜査2 果断/今野敏/新潮文庫】☆☆☆☆

警察小説はたくさん発表されていますが、いまだ人気の衰えることのないシリーズがこの「隠蔽捜査シリーズ」。シリーズの中でも最も面白い「果断」。超エリート警察官僚だった主人公竜崎は不祥事で大森警察署長に転属。いきなり立てこもり事件が発生します。事件は解決したかに思えたのですが、どんでん返しが待っていました。警察組織内部の壮絶な覇権争いの中、彼は信頼を取り戻していくのです。

 

【昭和UFO/阿武誠二/リットーミュージック】☆☆☆☆

エッセイで押しならこれ!松江市出身のロッカー、ギターウルフのセイジが初めて書き下ろしたエッセイ集です。九州での小学校時代、広島、松江の学生時代、東京での音楽活動、そして海外ツアー。その日々の中で感じたこと、淡い思い出などがぎっしりと詰まった自叙伝です。文章が瑞々しく、詩的で飾ることない言葉はまさに純真の一言。自分に正直な人なんだなと敬意を感じました。宮藤官九郎氏絶賛の書です。

 

今年は海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」にどっぷりはまってしまって、読破した本は少なかったのですが、それでも素晴らしい作品に出会えました。